2005-04-01から1ヶ月間の記事一覧

「タリア」第13章その4

(第13章その4) 翌朝、神谷は始発の汽車でツルクへ向った。 ヘルシンキから汽車で一時間半の距離にあり、バルト海沿岸に面したこの旧都に、神谷は何度も行ったことがあった。 そのほとんどはストックホルムへ向う途中の中継点として滞在しただけであったが…

「タリア」第13章その3

第13章その3 「あの紙のこと?」 「そうよ。あれは父の部屋にあった紙よ」 「お父さんの部屋にだって?」 「間違いないわ。今からそれを確かめにいくのよ。さあ、家の鍵を持ってきたわ。行きましょう」 タリアそしてメイユの父親アントン・コッコネンの住ん…

「タリア」第13章その2

第13章その2 九時四十分。メイユの部屋に入ると、神谷は、今さっき思いついたことを息を弾ませながら喋った。 「この紙だ。ます目の入ったこの紙。タリアの持ち物からこれと同じ紙を捜して欲しい」 「どういうこと?」 けげんそうな顔で、メイユが神谷を見つ…

「タリア」第13章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの作品だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加筆訂…

「タリア」第12章その2

(第12章その2) 「これがどうかしたの?」 「ママの誕生日だった日に乗っけてくれたおじさんも同じネクタイをしていたわ。赤い喋々の模様がすごくきれいだったの。その蝶の名前知ってる?」 「おじさんは知らないけど。知ってるの?」「うん、アグリアス…

「タリア」第12章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの作品だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加筆訂…

「タリア」第11章その3

(第11章その3) メイユの言葉に、神谷は紙きれを見た。 それは方眼紙の切れ端で、何かのメモに使ったらしかった。 数字が走り書きされている。 紙きれは一枚の紙の右下端がちょうど三角形の形になって残っているだけで、839と記されていた。 「タリアの字…

「タリア」第11章その2

(第11章その2) 数分の間、二人は口を閉ざしたまま互いに物思いに浸っていた。 メイユは、神谷に対して好意以上のものを抱き始めている自分に気づき、神谷の存在を今まで以上に意識していた。 神谷は、灰色の空に顔を向け、肩にメイユの体温を感じながら…

「タリア」第11章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの作品だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加筆訂…

「タリア」第10章その3

(第10章その3) 神谷は驚いたように息をのんだ。 そして、すぐに首を横に振った。 「それは嘘だ。お前がタリアと寝ていたのを見た目撃者がいる。どうしてそれを認めない」 「俺のいうことを信じてないな。だがな、せっかく俺が寝ていないと言ってるんだ。…

「タリア」第10章その2

(第10章その2) 「俺がその女を殺したとでもいいたいのか」 「お前が殺ったと信じている」 「証拠は?」 アキの問いには答えず、神谷は続ける。 「お前のアリバイは?」 「そんなこと、どうして俺があんたに言わなきゃならないんだ。 俺が殺人なんかする…

「タリア」第10章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの作品だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加筆訂…

「タリア」第9章その3

(第9章その3) エヴァは黙って、神谷と向かい合っていたが、やがてくすくすと笑い出した。 「はじめてよ。あんたみたいにはっきりものを言う日本人、はじめてよ」 エヴァはそう言って歩き出した。 「寒いわ。駅まで駆けていい?」 「彼がどこにいるのか知…

「タリア」第9章その2

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの作品だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加筆訂…

「タリア」第9章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「一番面白く読んだのはこの作品だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加筆訂正しております。物語は日本人…

「タリア」第8章その2

(第8章その2) 「われわれもその見方をとっています」 「異物は男性器の代用と考えるべきでしょう。 ただ、他の五人に異物が挿入されていなかったからといって、犯人が異物を使用しなかったとは断言できません。 恐らく犯人は他の場合にも異物を使用していた…

「タリア」第8章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「一番面白く読んだのはこの作品だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加筆訂正しております。物語は日本人…

長編推理小説「タリア」第7章その4

長編推理小説「タリア」第7章その4 「髪はどうだった」 神谷が話にくわわった。 「これくらいだったと思うわ」 娘は肩のあたりを手で示した。 「パーマは」 「かけてなかった。ストレートよ」 「背丈は」と言って、神谷は立ち上がった。 「そうね。あなたと…

長編推理小説「タリア」第7章その3

(第7章その3) 黒皮張りの長椅子の方に向って歩いた。途中でフィン娘の豊かな胸が神谷の腕に触れた。『モンディー』は今夜も人であふれている。 「久しぶり」 神谷は右から四番目の黒髪に声をかけ、その男の横に強引に尻を割り込ませた。 「また戻って来たん…

長編推理小説「タリア」第7章その2

(第7章その2) 神谷は、閉じた眼の奥にタリアを追っていた。 何千メートルもの深海にすいこまれていく彼女を求め、彼もあとを追う。 彼女は暗黒の海底に辿り着くや、そのまま姿を隠してしまう。 彼は捜す。何日も何十日も。 やがて、彼女の声が遠くからか…