2005-05-01から1ヶ月間の記事一覧

「タリア」第18章その4

(第18章その4) 「コッコネン氏に話した内容ですが、ひとつ思い出したことがあるんです。 警察には話していなかったことなので、私もすっかり忘れていましたが、実は、父は日記をつけていたんです。 父が死んだ後すぐに、部屋を片づけて荷物を全部私の家に…

「タリア」第18章その3

(第18章その3) エルキ・ラウノ、タカラ・ミルカネンそしてユハ・ライナネン。 ヨハンセン氏宅の合鍵を作ったのは誰かとなると、この三人がもっとも怪しい。 しかし、動機に視点を移すと、彼らがヨハンセンを殺害しなければならない理由はまったく浮かんで…

「タリア」第18章その2

ブログランキングに参加しています。お気に召しましたらここを毎日1回クリックしてください!(第18章その2) 「それで、私に訊きたいことというのは?」 きれいにそろえた口髭を指でつまみ、エルキは言った。 澄んだグレーの瞳と血色のよい顔、バネのあり…

「タリア」第18章その1

ブログランキングに参加しています。お気に召しましたらここを毎日1回クリックしてください!作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの長編小…

長編推理小説「タリア」第17章その4

(第17章その4) 「彼女があなたにどんなことを尋ねたかと聞いたのですが」 「そう、それよ」 老婆は今にも叫び出さんばかりにそう言って、両手を胸の前でしっかりと握り合わせた。 「いま、あなたが喋ったとおりにあの娘さんも喋ったのよ。 あの娘さんは、…

「タリア」第17章その3

(第17章その3) 神谷の知りたがっている事が何であるのかわかると安心したのか、老婆は急に表情を和らげた。 「今年の三月末ごろのことですが、二十歳過ぎの若い女性が来なかったでしょうか」 「来ましたよ。それくらいの年のきれいなお嬢さんが」 老婆は…

「タリア」第17章その2

長編推理小説「タリア」第17章その2 神谷はシエキネンとともに、ひっそり閑としたサノマット新聞社資料室で、クオピオ事件の経過をたどっていた。 「驚いたもんだ。アントンはこんな難事件を一人で解こうとしていたのか」 資料を元の場所に片づけ、シエキネ…

「タリア」第17章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの長編小説だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加…

「タリア」第16章その3

(第16章その3) 「クオピオに関するかどうかはわからないが、あれはちょうど一年ほど前になる。アントンが私の家に寄った際、テレビを見て… そう、あれはフィンランドとスウェーデンで起きた過去の難事件や迷宮入り事件の特集番組で、アントンはそれにひど…

「タリア」第16章その2

(第16章その2) 神谷はシエキネンについて、レストランに入った。 「さっき、アントンがクオピオへ行ったことがどうかしたと言ってたね」 雨に濡れてほつれた髪をかき上げ、シエキネンは早口に喋った。 「ええ」 「いや、アントンがクオピオへ行ったかどう…

長編推理小説「タリア」第16章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの長編小説だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加…

「タリア」第15章その3

(第15章その3) 「ううん、わかんない。忘れちゃった」 「それじゃ、顔のほかには何か気がつかなかった?」 失望を表情には出さずに、警部は気をとり直して質問を続けた。 「やさしいおじさんだったわ」 「やさしい? どんなふうに」 「わかんない。そう思…

長編推理小説「タリア」第15章その2

長編小説「タリア」第15章その2 「アゲハ蝶の一種で、アグリアス・クラウディナ・サルダナパルスっていうのよ。本物は上の羽だけが赤で、下の羽は青色なんだけど。この蝶は全部赤だから、どの蝶にも本当は当てはまらないの」 紫色の地に赤い蝶の模様が入っ…

長編推理小説「タリア」第15章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの長編小説だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加…

長編推理小説「タリア」第14章その4

長編推理小説「タリア」第14章その4 (第14章その4) バンターンコスキに着いたのは、神谷がメイユに電話をかけてから二時間後だった。 バスを降り、風にざわめく白樺並木を小走りに駆け、神谷は見覚えのある一軒の家の前で足をとめた。 垣根はところどこ…

長編推理小説「タリア」第14章その3

長編推理小説「タリア」第14章その3 以上の事柄が三枚の書類に整然とタイプ打ちされていた。 書類から判断するかぎりでは、アントン・コッコネンの事故は第三者の手によるものとは思えない。 神谷は、事故記録の詳細を頭に叩き込むとともに、タリアがこの事…

「タリア」第14章その2

(第14章その2) アントンの起こした交通事故。 あれは、仕組まれたものだったのではないだろうか。 交通事故を装った他殺ではなかっただろうか。 突拍子もない推理ではあったが、タリアの行動を解明するにはそう考えるほかない。 「タリアはアントンの死に疑…

「タリア」第14章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの長編小説だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加…

「タリア」第13章その5

(第13章その5) 「いつごろ?」 「一月から六月十日までの間です」 看守はピューッと口笛を吹き、肩をすくめた。 首をふり、十秒近くの間どうしたものかといいたげに迷っていたが、結局、机の端にたてかけられたぶ厚いファイルを手にとった。 面会人リスト…