第41章その3

(第41章その3)


神谷は一瞬、ハッカネンから眼をそらし、宙をみつめた。
タリアを殺した犯人をついに追いつめた。
でも、それだけのことじゃないか。
タリアは、彼女は、もう戻ってきやしないんだ。
神谷は唇をかみ、再び視線をハッカネンに戻した。
神谷が話し始めてからずっと、ハッカネンは身動きもせず、相手が喋るにまかせている。


「彼らはクオピオ事件の何かを探り出した。
そのために殺害された。
そこから出発して、私は事件に何か手掛かりが残っていると考えた…。
手掛かりはあった。
合鍵。
ヨハンセン氏の住んでいた部屋の前住者が鍵を失くしたことがあったのです。
その時に、ヨハンセン氏を殺害した犯人はその鍵を拾い、合鍵を作っておいてから警察に届けた。
アントンはそこに手掛かりを見つけようとした。
彼は警察の遺失物記録を調べた。
だが、鍵の遺失物記録が書かれているはずの問題の頁は消えていた。アントンはここまで事件を追ってきたところで事故にあった。


じゃ、タリアはどうだったか。
彼女は合鍵の件は探ってはいなかった。
彼女はヨハンセン氏を病院に運んだ医師の話を聞き、そこからあることに思い当たった。
ヨハンセン氏はフントネン刑事を指さして死に絶えた。
フントネンを調べるが何も出てこない。
でてこなくて当然だった。
ヨハンセンがフントネンを指さしたのは犯人がドイツ人であることを告げるためだったからです。
彼女はここまで探ったところでアムステルダムで殺された。


私は彼らがたどった跡をたどり、彼らと同じところで行き詰まってしまった。
しかし、闇の中を手探りで進むうち、ヨハンセン事件の容疑者の一人からドイツ人の流れ者が捕らえられていたことを聞き知った。
その男がクオピオへ来たのは大戦時ドライアイヒという町へ従軍していた父親を探すためだった。
男の名はアドルフ・グレーペ。
私はその男を犯人と信じて追った。
しかし、彼はストックホルムで死んでいた。
これで事件は手の届かぬところへ行ってしまった。犯人が死んだ以上どうしようもないと思ったからです。


だが、私は間違いを犯していた。
アドルフがアントンとタリアを殺したものと考えていたが、クオピオにいなかったアドルフにタリアたちの動きがわかるわけがない。
そのことに気づくと、私は真犯人が誰かと考えた。
タリアたちを殺す必要があった人物、それはアドルフの父親に他ならない。
そう考えると同時に、ファイルから問題の頁が消えた謎が解けた。
アドルフの父親はクオピオ警察の警官だったからです。
そして、その人物というのは署長のハッカネン、あなただった」
神谷は、この場に存在しない誰か他の人物の名を口にするかのように冷静に、その名を口にした。


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