第34章その2


(第34章その2)


薄暗い裸電球が頭上でかすかに揺れている。
アドルフにタリアとアントンの行動がわかること自体が矛盾しているんだ。
俺はそのことにもっと早く気がつくべきだった…。
だが、アントンとタリアを殺した犯人がアドルフでないなら、誰が彼らを殺したんだ。
なぜ! 彼らがヨハンセン事件を追ったからか。
いや、あの事件の犯人はアドルフなんだ。
だから、タリアたちがいくらヨハンセン事件を探っても、アドルフ以外に彼らの行動に不安を抱く人物なんていやしないはずだ。
「しかし、アドルフ以外の誰かがタリアらを殺した。あー、だめだ。どこか矛盾している。アドルフの他にそんなことをする人物なんかいるわけがないじゃないか。くそっー」
両膝の間に頭をかかえこみ、神谷は悲痛なうめき声をもらした。


クオピオにいなかったアドルフにタリアらの行動がわかろうはずがない。
恐らく、アドルフはタリア及びアントンの存在すら知らなかったのではないのか。
となれば、彼らを殺したのは誰か。
めまぐるしく転回する推理の中で、神谷は一つの答えを見つけようと必死にもがいていた。
〈アドルフ以外の誰かがタリアたちを殺したとすれば、その動機は…。
タリアらがクオピオ事件の真相をつかむのを恐れたためでしかない。
だが、ヨハンセンを殺した犯人はアドルフ…。
まるでアドルフを庇うために、タリアらを殺したとしか思えないじゃないか。
アドルフを庇って…〉


神谷は思わず頭を上げた。
推理の歯車が、がちっと組み合わされ、うなりをあげて動き始めた気がした。
次の瞬間、神谷は背筋にぞくっとする戦慄を感じていた。
「それだ! アドルフは父親を探しにクオピオへ行った。そうか、息子の犯した罪を暴かせないよう、父親がタリアらを殺した…。そうだ、それしか他に考えられない」
神谷は再び、部屋の中をぐるぐる歩き始めた。
左の掌に右のこぶしをぶつけ、あるいは立ち止まり、推理を確かめていたが、突然、あっと叫んだ。
ある矛盾に思い至った。
アドルフの父親に、アドルフが自分の息子であるとわかったのはなぜだ。
アドルフ自身でさえ知りえなかったことを、どうしてわかったんだ。
それに、アドルフが犯人であることを知りえたのはなぜだ…。


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