第24章その2

(第24章その2)


シエキネンの紹介してくれた新聞記者は名をカイ・ラウリラといい、サノマット新聞クオピオ支局で二十年来働いているということだった。
街の中央部に位置するマーケット広場。
その周辺にはクオピオで一番高級な『クオピオ・シティ・ホテル』、格式のある石作りのスオミオン銀行、大人たちの社交場として利用されている落ち着いた雰囲気のレストラン『ラプランスカヤ』、それに神谷の行きつけになってしまったカフェテリア兼レストラン『ポッケラ』などなどが広場を囲むようにして建ち並んでいる。
サノマット新聞クオピオ支局は、その広場を西へ百メートルほどいったところにあった。
三階建ての古めかしいビルの一室を借りたもので、他に旅行社や毛皮商が同じように部屋を借りていた。


サノマット新聞クオピオ支局の内部は、狭い部屋の中に六つのデスクが詰め込まれ、見るからに雑然としていた。
神谷が入っていった時、部屋には三人いるだけで、一人は二十代後半の女性で機関銃のような音をたててタイプを叩いていた。
シエキネンから連絡がいっていたらしく、神谷の姿を見ると、ラウリラは通話中の受話器を手で押さえ、椅子に腰かけて少しの間待っているようにと言った。
電話の内容は、クオピオから北へ百五十キロのカヤニという町で起きたトナカイと車の衝突事故に関してのものだった。
三分ほどして電話を切ると、ラウリラは席を立ち、神谷の方へ行った。
小さい眼に親しみをこめ、両手で神谷の右手を握り、開口一番、ようこそクオピオへと言った。


近くの腰掛けを引き寄せ、そこに尻をのせ、
「本社のシエキネン記者から、日本人が訪ねてくるだろうから、用件を聞いてやってくれと言われてましてね」
神谷に好奇の眼をやり、ラウリラは興味しんしんといった口調で言った。
シエキネンからどこまで聞いているのか知らないが、だいたいのところは聞かされていることだろう。
神谷は、どうせ聞かれるだろうからと考え、事情あってクオピオ事件を探偵しているのだと説明し、当時の容疑者に会いたい旨を話した。
「それで、クオピオ事件を解こうなどと本気で?」


たばこを吸う代わりに、ガムのような黒い物を口の中に放り込み、ラウリラは問うた。
迷宮入りとなった過去の難事件を、事件とは何のかかわりもない日本人が解こうとするのも不思議なことだが、それよりも解けようはずがないと信じこんでいるふうであった。
「解けるか解けないかは、やってみなければわかりません」
「事件に首を突っこんだきっかけはどういった理由で?」
「容疑者に会ってどうしようと?」
フィンランドに来てどれくらいに?」
「そのフィンランド語はどこで? お上手ですね」
「クオピオへはいつまで?」
といった質問に答えたあと、神谷は本来の用件に戻り、容疑者の名前を尋ねた。
ラウリラの教えてくれた容疑者は、アンティ・コリョネンという名の男で、事件当時の年齢は二十四ということだった。
ラウリラからコリョネンの住む場所を聞き出すと、神谷はその足でコリョネンに会いに行った。


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