第36章その3

(第36章その3)


短い滑走路が一本あるだけのローカル空港で神谷が調べたことは、六月十一日クオピオ発ヘルシンキ行きの飛行機にハッカネンが搭乗していたか否かであった。
最初に、調べてもらおうと頼んだときにはあっさりと断わられてしまった。
だが、これで諦めるわけにはいかなかった。
神谷はサノマット社のシエキネンに連絡をとり、助けを求めた。
「そんなことなら、お安いご用だ。私の方から手を回しておこう」
結果は、シエキネンのいうとおりとなった。
係の女性が搭乗者リストを調べるのを、神谷は熱い食い入るような眼で見守った。
結果は、ハッカネンは六月十一日午前九時三十分発のヘルシンキ行きの便に間違いなく搭乗していた。


その便がヘルシンキに着いたのは午前十時四十五分。
そして、ヘルシンキからアムステルダムへはフランクフルト経由で午前十一時三十分発のフィン航空のフライトがある。
それを利用すればアムステルダムスキポール空港には午後三時二十五分に到着することがわかった。
〈タリアの到着するまでに、彼女を殺害する準備を整えておく時間はある〉
神谷は深く息を吸い込み、はやる気を抑えた。
ハッカネンの仮面を、警官という仮面をはぐにはあと一歩だ。
神谷はそう思った。


「すいませんが、今年の一月十六日の分も調べてもらえませんが。同じくヘルシンキ行きです」
神谷はしつこく食い下がった。
うまくすれば、一月十六日のハッカネンの動向もここでわかるかも知れない。
ハッカネンは一月十六日にヘルシンキへ行ってなければならない。
そうでなければ、アントンを事故死に見せかけて殺したりはできない。
そして、ヘルシンキへ行くには飛行機を利用するのが時間を無駄にせずにすむ。
「あるわ、一月十六日でしょ。ほら、ここにその人の名前が載ってるわ」


〈やった! やっぱりだ。一月十六日と六月十一日、ハッカネンはこの日クオピオを離れてヘルシンキへ行った。
よしっ! 次はヘルシンキ空港だ。
そこで、奴がアムステルダムへ行った事実を確かめるんだ。
それが確認できれば、奴を目撃した人物を探し出す…〉
クオピオを発つ前に、神谷はサノマット社のシエキネンに再び電話を入れ、ハッカネン署長の写真を手に入れたいこと、そして、ヘルシンキ空港発アムステルダム行き六月十一日の便にハッカネンが搭乗していたかどうかを調べて欲しいと依頼した。


「そんなことならお安いご用だ。まかせてくれ、ヤパニライネン。こっちへ着いたら電話をくれればいい。それ迄に、調べておく。写真はこっちで預かっておくのでいつでもとりに来ていい」


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