第33章その1

(第33章その1) 翌日、神谷は旅行社へ行き、日本への帰国手続きを済ませた。 ロシア通過ビザ取得に日数を要すため、ヘルシンキを発つのは十日後の十一月二十五日となる。 モスクワ行きの汽車が出るのは午後一時だ。 帰国日が決まり、だんだんとその日が近…

第32章その2

第32章その2) ― 「もっと強く、抱いて」 神谷は、弓なりに体をそらす彼女を、ベッドに押しつけるようにして、深く入っていった。 快感が頂点に達しようとすると、強引に体を離し、彼女の体を乱暴に動かし体の向きを変えた。 何度も同じことを繰り返した…

第32章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの長編小説だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加…

第31章その3

(第31章その3) 警部に促がされて車の内部を確かめたクロンペンは、車が盗難にあう前とほとんど変わっていないことを証言した。 変わった点は、シートに浸みついた尿と血こんの跡、それにカーステレオのダストカバーに挿入されてあったミュージック・テ…

第31章その2

(第31章その2) 「私の見た限りでは、この五ヵ月間一度だって動いちゃいないよ。その前には何度か使ってたみたいだがね」 「その前?」 「いつだったか、一度見たことがあるんだけど。男がこの車に乗って出て行くところを」 「どんな男でした」 警部は慌…

第31章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの長編小説だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加…

第30章その4

(第30章その4) 神谷は、体中から力がすーっと抜けていくのを感じた。 地の果てまでも追いつめる! その相手が、五ヵ月も前にあっけなく死んでいたなんて。 夢にも思い浮かばぬことだった。 だが、現実に、アドルフ・グレーペは死体となって目の前に安置…

第30章その3

(第30章その3) いつの間に戻ってきたのか、先ほど写真を持って部屋を出ていった警官が刑事の横に立っていた。 「ちょっと確認してもらいたいことが起きたので」 「確認…?」 神谷は不安な眼差しで刑事を見つめた。 「まだ、はっきりとは断定できないが……

第30章その2

(第30章その2) 一年前の六月以降にアドルフを見た者がストックホルムにいないのはなぜだろうか。 あのドイツ人は、アドルフをストックホルム行きの船の中で見たと言った。 船はコペンハーゲンからストックホルムまでノンストップだ。 それなら、アドル…

第30章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの長編小説だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加…

第29章

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの長編小説だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加…

第28章その3

(第28章その3) 「九年前にこの町を出たきりなの。あー、どしたらいいの。せっかく、せっかくあの子の父親が見つかったというのに」 神谷は唇をかんだ。 〈だめか。くそっ、ここまできて、アドルフの居所を知っている者がいないなんて、だが〉 「誰か、…

第28章その2

(第28章その2) 「ほぼ間違いないです。ある人物と、アドルフの持っていたペンダントの話をしていてわかったんですが、その人物のかつて持っていたペンダントの特徴がアドルフのペンダントとぴったり一致するんです」 言いながら、神谷は胸ポケットから…

第28章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの長編小説だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加…

第27章その2

(第27章その2) 「アドルフに部屋を貸したのはもう何年も前のことだし、今どこにいるかなどと尋ねられても見当もつかん。アドルフがドライアイヒを出ていってから、戻ってきたことがあるかって? そんな話は耳にしとらんよ」 アドルフ・グレーペに部屋を…

第27章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの長編小説だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加…

第26章その2

(第26章その2) 「彼のその後の居場所をご存じですか」 神谷は答えをあてにはしていなかったが、もしやと思って聞いてみた。 それに対して、女主人は何かいやなことを思い出したというように、首を大げさに横に振り、 「ここを出ていってからは一度だっ…

第26章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの長編小説だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加…

第25章その4へ

(第25章その4) コリョネンは急にもそもそと体を動かし、空咳をし、 「五十マルカ分は話したんじゃないのか。三十分はとっくに過ぎちまってるぜ」 と言って、右手を神谷の前に突き出した。 「わかった。いくら欲しいんだ」 神谷はコリョネンの顔をじっと見…

第25章その3

(第25章その3) 神谷は腰をあげた。外はまっ暗で、風は先刻よりもいっそう強く吹いている。 「もうすぐ約束の三十分になる」 窓から目を転じ、コリョネンの方へ向き直ると、神谷は重い口調で言った。 コリョネンの話は事件の背景をより広い範囲にわたって知…

第25章その2

(第25章その2) コリョネンはこけた頬をくやしそうにゆがませ、容疑者として捕らえられる羽目になったいきさつを語り始めた。 当時、アンティ・コリョネンはパイロット養成のための夜間学校に通っていた。 民間航空のパイロットになるのが彼の夢だった。 昼…

第25章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの長編小説だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加…

第24章その2

(第24章その2) シエキネンの紹介してくれた新聞記者は名をカイ・ラウリラといい、サノマット新聞クオピオ支局で二十年来働いているということだった。 街の中央部に位置するマーケット広場。 その周辺にはクオピオで一番高級な『クオピオ・シティ・ホテル…

第24章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの長編小説だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加…

第23章

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第22章その2

ブログランキングに参加しています。お気に召しましたらここを毎日1回クリックしてください! (第22章その2) クオピオに、外科設備のある病院は一つしかない。 クオピオ・ゼネラル・ホスピタルがそれだ。 それ以外には開業医が七、八人いるが、ほとんどは…

第22章その1

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第21章その2

ブログランキングに参加しています。お気に召しましたらここを毎日1回クリックしてください! (第21章その2) 手紙を読み終えると、バンヘルデン警部はきびしい表情で、カレヴォルトの方へ向き直った。 アムステルダム警察署のこの部屋で、カレヴォルトと…

第21章その1

作品解説:この長編小説は第24回江戸川乱歩賞最終候補作となりました推理小説「タリア」を選評(「文章が粗いので受賞は諦めたが一番面白く読んだのはこの長編小説だ。惜しい、まったく惜しい」「文章を修正すれば名作になったかもしれない」にもとづいて加…

第20章その2

(第20章その2) 老店主は二つの鍵を釘から外し、神谷に見せた。 「この合鍵を作るには、ほら、この元になる鍵型がいるんだ。伝票を見ても、あんたにはわからんだろうが…。そこに、元の鍵型の番号が書いてあって、それを見ればどんな鍵を作ったか一目でわか…